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メタモルフォーゼとは、変容とかいう意味だったことを秋川は思い出した。
そしてこの、左から右へと流れていくような構図には見覚えがあった。
「エッシャーだ。おまえ、画集を持ってたよな?」
併せて、以前、瀬田の部屋で、それを見せてもらったことも思い出す。
かなり大判の、立派な装丁のものだった。
それで秋川は、瀬田がエッシャーを好きだということを知った。
瀬田はややあって、言った。
「えぇ、画家として好きなのはもちろんのこと、デザイナーとしても尊敬しています。・・・実は、あの画集は杉生さんからもらったものです。エッシャーのことをおれに教えてくれたのも、彼でした」
秋川も又、少し間をおいてから口を開いた。
「そうか。よかったな」
「え・・・?」
さすがの瀬田も絶句した。元カレからのプレゼントの話を聞いて、心穏やかでいられる秋川が正直、信じられなかった。
そんな瀬田に、秋川はそのままの調子で続ける。
「おまえが杉生と付き合っていた間、酷い目に遭っていなかったか気になってた」
「慎一さん・・・」
「・・・・・・知ったところで、おれには何も出来ないんだけれども」
苦く、少しだけ笑って言い足す秋川に、瀬田は自分の浅はかさを謝りたくなり、とっさに叫んだが、
「あ、あのっ!」
「晴季」
ものの見事に、秋川の声と重なった。
「何ですか?」
「いや・・・おまえこそ何だ?」
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