ケーキ売りの少女

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ケーキ売りの少女

「ケーキ買ってください。ケーキ買ってくださぁい」 12月24日。 でかい図体をサンタコスチュームに身を包んだ私は、延々同じ言葉を繰り返していた。 ひたすらに『買ってください』とだけ言う仕事。 『お買い上げありがとうございます!』とは、いまだ一度も発する事が出来ていない。 「ちくしょう……クソ寒ぃ。店長、ゴミ鬼畜かよ」 下は女の子向けのミニスカート仕様。 それはまぁ、構わん。 暖房の効いた店内ならな! 外回りには、ダウンコートとか暖かいモンを着せるだろ。 ところがあの野郎『売り上げに響くから、余計なもの羽織るな』とか抜かしやがる。 おかげで寒さに凍えるわ、サンタ衣装で挑んだのに売れねぇわの大惨事だ。 「ううーー。腹へったなぁ」 屋外に設けたケーキ売り場は、店内売り場から絶妙な死角に位置している。 席を外しさえしなけりゃ不審がられる事はない。 だからさっきも、クソ店長の目をクソ憚る事無く、チョコバーをこっそり食べてやった。 だが足りねぇ。 この極寒ミニスカート地獄において、チョコ菓子1個が何の役に立つというのか。 立つわけねぇだろボケ。 「おいしいイチゴケーキですよぉ、いかがですかー?」 この店はとにかく立地が悪い。     
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