一匹目の供

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俺は鬼なんかよりも、桃太郎家を懲らしめてやりたいが家族のことを考えると、そうもいかず、とにかくサッサと試練を終えたかった。 家を出た俺の目の先には、その気にくわない桃太郎の無駄に大きい屋敷が見えた。 「ふんっ」っと、鼻で笑い飛ばし歩き始めようとすると、 「おい、そこのお若いの、メシはまだかね?」と声がした。 見ると、そこにはタローがいた。 タローはさっきも言ったが、うちで飼っている犬であり、十七才の老犬だ。 「いや、さっきご飯あげたばかりでしょう」 タローは最近少しボケてきているようで、たまにご飯を食べたことを忘れる時がある。 「はて、そうじゃったかのー?」 俺は「はーっ」とため息をつきながら、仕方なく母ーちゃんがさっき作ってくれたきび団子を布袋から一つ取り出し、タローにあげた。 「ほらよ」とタローの口に近づけると、タローは喜んで食べた。 「おー、どこのどなたか存じませんが、こんな美味しいものを下さるとは。ありがたや、ありがたや。」 タローは尻尾をゆっくりと振りながら言った。 「いや、どこのどなたって、俺だよ、桃源だよ!」 俺がタローにはっきりと聞こえる声で言うと、 「おー桃源、そこで何しとるんじゃ?」 と返してきた。 俺は、"ダメだこりゃ"という思いと、"こんなんで一緒に鬼退治大丈夫なのか"という思いが同時溢れてきた。
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