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誇らしげにもさもさした胸毛…もとい、胸を張って自己紹介する、猫ことチェインバー。
「あたしのことは愛情と敬意を込めて「クレート様」って呼びなさい。呼び捨てやファーストネーム呼びは、本当に親しい相手にしか許さないんだからねっ」
「かしこまりました、クレート様」
「あいわかった、クレート様」
即座に順応するふたり。全く嫌味が通じないが、大人な対応に満足したのか、チェインバーは爪先までびっしり生え揃った長毛を震わせ、マットをぽふぽふと踏みつける。
「な、なかなか聞き分けのいい子たちじゃない。ふふん、殊勝な心がけね」
チェインバーが腰を下ろした状態の体長は、前足の肉球から耳の毛先まで、およそ12センチ弱。顔つきは大人だが、サイズは非常に小さく、挙動ひとつひとつが愛らしい。
しかしプライドは身の内に収まりきらないほど高い。さしずめこの霊峰級といったところか。だがとにかく愛らしい。
気分がよくなったチェインバーは、意気揚々と耳をぴくつかせ、ふんぞりかえった。
「でも本来ならあんたたち人間は、あたしに触れるどころか、言葉を交わすことすら許されないのよ?なんたって、あたしは」
ガルォオオオオオン…!!
チェインバーの台詞を遮ったのは、怪物めいた魔物らしきものの咆哮。天都はすぐに端末の画面をつけて、対象の魔物の現在地を調べた。
魔物を示す赤いポイントマーカーは、いつの間にかゴブリンたちの巣を抜け、天都たちが辿ってきたルートに沿ってゆるやかに移動していた。
「…動き始めたか。すまないクレート様、話の途中だが、我々はそろそろ行かなくては」
「待ちなさい、今動くと危険よ。あなたちちがここへ何をしに来たのかは知らないけど、この遺跡には、とても恐ろしい怪物が巣食っているのよ」
チェインバーは天都の膝に跳び乗って、立ち上がろうとするのを阻止した。
「命が惜しければ、今はここでじっとしていなさい。あいつの行動には一定のパターンがあって、この部屋の前の通路を通りすぎた後は、しばらく「すぐそこの最奥」の中をうろつくから、その隙に走って、地上に逃げ」
「待ってくれ。最奥はここから近いのか?…いや、その前にクレート様、貴殿はあの魔物を知っているのか?というか貴殿はいったい、何者なのだ?」
天都はチェインバーを手のひらに乗せて、真剣な眼差しを向ける。
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