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「ふわふわ!ふにふに!禁断の触り心地!!」
「ひゃあぁあ…ちょ、や、やめなさ…ゴロゴロゴロゴロ…」
半狂乱に陥った天都の腕に抱かれ、人語を介していたのは…なんと、手のひらサイズの小さな猫だった。
しかも、日本でよく見かけるタイプの野良猫とは、顔つきがまるで違う。
鋭くつり上がった半月状の目、殺意が込められているかのような紅い瞳、ぺちゃっと潰れた愛らしい鼻。
そして全身を包む、上向きにカールした焦げ茶色と白が入り雑じった長毛。
子猫と呼ぶには少し大きく、大人と呼ぶには小さすぎる。非常に微妙なサイズ感だが、顔は「エキゾチックロングヘア」のそれだった。
地球の人間であるクロムにとって、猫は日常のあらゆる場所で名や姿を見聞きする馴染みの深い存在だが、このスティムドに住む人間・篠紅は、怪訝そうに唸っていた。
『あァ?なんだいそいつは。んー…獣人、にしちゃ小さすぎるし獣っぽすぎる…けど、さっきアタシらとおんなじ言葉喋ってやがったよな』
「…これは驚きましたね。まさかスティムドに「猫」が棲息していただなんて…」
篠紅とクロムはそれぞれ違うポイントを論点にして、独自の見解を深めていく。
その間に天都は、何か訴えたそうにむにゃむにゃ言いながらも喉を鳴らしまくっている猫の後頭部や耳の付け根、背中、アゴを徹底的に撫で回した。
「あっ、あっ、そこぉ…きもち、いい…ゴロゴロゴロ…」
ーーーーーーー
約5分後。それぞれの考えや気持ちが落ち着いてきたところで、ふたりはラグマットの上に並んで座った。
猫はふたりの正面にちょこんとお座りして、乱れた毛を舐めて整えていた。
「はぁー、気持ち良かっ…じゃなくて、ひどい目に遇ったわ。自慢の毛並みが台無しじゃない」
ゴブリン集落のあいつよりも流暢な人語を操る猫は、相当プライドが高いらしい。まるで初登場時の黒豹獣人のような、素直じゃない態度をとっている。
すると正気に戻った天都は、毛繕いする猫の前に堂々とひれ伏し、謝罪した。
「すまなかった、ぺちゃ顔の君。貴殿のお顔が可愛すぎて理性を失っていたとはいえ、動物好きとして恥ずべき行いであった」
すまない、と再度謝罪を口にすると、猫は「ふん」と鼻を鳴らした。
「あたしに平伏するのはいい心がけだけど、変な名前で呼ばないで。いい?あたしには「チェインバー=クレート」っていう立派な名前があるんだから」
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