-D.W編-プロローグ

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 怒ったように見えるチェインバーだが、彼女も真面目な表情を浮かべているだけに過ぎない。じっと天都を見つめ返して、高圧的な態度はそのままに、1度だけ瞬きをした。  そして、しゃくれたアゴを動かしながら語り始める。 「…聞いて驚きなさい。あたしは、スティムドを創造した七大神(ななつおおみかみ)がひとり、女神ミトアルフェ…」 「えっ?」 「…に飼われていた、「捕縛」の力を持つ守護聖獣よ」  真剣な場面だが、天都は前のめるようにずっこけた。チェインバーは手のひらを蹴って天都の後頭部に飛び乗り、ハンディモップに似たふさふさ尻尾を振った。 「か、飼い猫か…。女神様ご本人かと思ってしまったではないか」 「馬鹿ね、古代神だって暇じゃないのよ。最近古代神たちは、スティムドをより良く円滑に運営するために「スティムドの意思」って疑似コミュニティになりきって、管理人ってやつと連携を組んでるんですって」 『!!!!!!』  その時、クロムの中のスティムドの意思が一斉に息を飲んで固まった。どうやらチェインバーは、今となりで常に微笑を称えたまま正座している男性が現管理人だと知らないらしい。  そしてどうやら彼女は空気より軽い気化ガスよりも口が軽いようだ。人と話すのが好きなのか、単なる間抜けなのか、重大なことをベラベラと喋ってしまっている。 「この遺跡の原型になった建物、元は瓦斯外界(テロメラ)にあるミトアルフェの歌劇場なのよっ。そしてこのお部屋は、ミトアルフェがあたしのために造ってくれた、秘密のお部屋よっ」 「待て、情報量が多すぎる。こちとら再起誕を迎えたばかりで、事前に色々なことがあったから、脳の処理速度が落ちておるのだ」  天都は体を起こして、チェインバーを膝に乗せた。 「ええと…つまり貴殿、チェインバー=クレート様は古代神の飼い猫様で、この遺跡は古代神ミトアルフェの持つ建造物を模したもので、この部屋は貴殿専用の隠れ部屋…ということか?」 「そうよ。だけどひとつだけ違うわ」 「む?」  チェインバーはうつむいて爪先にぎゅっと力を込め、鋭く尖った鉤爪の先を、ほんの少し太ももに突き立てた。 「…あたしはミトアルフェの飼い猫「だった」の」 「だった…?」  聞き返すと、彼女の声のトーンが著しく沈んだ。 「…そう。あたしがミトアルフェと一緒にいたのは、もう何億年も前の話よ」image=512993071.jpg
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