20人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「待った?」
「ううん。今来たところ」
「待たせてゴメンね」
「さあ、行こう」
隣で待ってた男性の元に、小柄でグラマラスな女性が駆け寄りキスしていた。期待したあとの落胆は大きい。初恋をした事がなかったから、失恋の心地も初めて知った。
「あ゙~……」
やりきれなさに思わず呻きながら、目を瞑って前髪をがしがしとかき乱す。
「お前は相変わらず、おっちょこちょいだな」
「……え?」
「何処の広場か書いてなかったから、一時間も寒空の下、探す羽目になったじゃねぇか」
瞳を開けて目に入ったのは、期待してた君だったけど、表情はぷうと頬を膨らませて三白眼で睨んでいた。佐藤? 本当にお前か? 幻じゃなくて? 思わず頬に触れて確かめようとしたら、思いっきり甲をつねられた。
「いたっ!」
「あのなぁ吉田、聞いてるのか? 俺、一時間走り回ったんだけど!」
「あ、ああ、悪かった。埋め合わせはする。クリスマスプレゼント、何が欲しい?」
夢かうつつか惑乱して、そんな俗な言葉しか出てこない。君の機嫌は直らない。
「その前に、何か言う事があるんじゃねぇか?」
「え……あ、その……愛してる」
瞬間、サッと君の男性らしく整った頬に朱が差した。決まり悪そうに視線が泳いだあと……君は、僕の肩に片手をかけ少し背伸びして、僕の頬にキスをした。
「え……え!?」
僕の取り乱しように、ようやく君が笑う。貴重な『デレ』だ。
「お前ひょっとして、自分が立ってる場所に気付いてねぇのか?」
「立ってる……場所?」
「ヤドリギだよ。クリスマスにヤドリギの下に立ってる少女には、キスして良い、っていうやつ」
「いや待て。僕は少女じゃないだろ」
「ふふ、少女みてぇに慌ててたくせに」
ああ……いつもの君が、機嫌の良い猫みたいに気紛れに笑う。僕は一瞬、それに見とれてた。
「で?」
「え?」
「何処に行くんだ? デートに誘ったからには、プランはあるんだろう?」
「あ……」
しまった。きっと君は来ないと思ってたから、そんな事さえ考えていなかった。君が呆れたように、形の良い眉尻を下げる。
最初のコメントを投稿しよう!