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03 俺と幼馴染の旧友は俺が犯罪者に見えるらしい
もうすぐ朝食が出来上がるだろうか。
起床直後の眠気に任せソファーに身体を預けながら、ぼんやりと部屋の様子を眺めていた。いつもの自分の家ではない。3年前に出てきてから、未だ一度も帰っていない俺の実家だ。
俺に父親は居なかった。
黒い合皮のソファーに座るのも、日も昇らぬ時間から蛍光灯の灯りを頼りにキッチンに立つのも、俺の記憶の中では母親ただ一人だ。他に家族は居なかった。
だからと言って俺が不幸だったとか、人より恵まれていない環境だったと思うことは無く、それが日常だったし、他の、本当に大変な人生を生きる人間に比べれば幸せな人生を送ってきたと思えるほどだった。
ただ一つ不満なのは、俺が父の居ない理由を教えて貰っていないことだ。家に父の仏壇が無かったし、生まれてこの方お経を拝聴したことも生でお坊さんを拝見したことも無いので、おそらく死別ではなく離婚なのだろうが、それ以上を教えてもらおうとすると母はいつも韜晦した。
ほどなくして母が配膳を始めた。朝食はスクランブルエッグ、昨日の夕飯の余り物のクラムチャウダーとパンだった。クラムチャウダーか・・・正直不味いんだよな、これ。
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