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「それは…何故?」 「例えば君は、前向きな人と、後ろ向きな人、どちらかと一緒にいたいですか?」  男の台詞に、私は「なるほど」と内心で呟く。  確かに『彼』は自分の存在を正しく理解していたのかもしれない。『彼』の在り方は、誰よりも清廉で濁りなく、何よりも尊いものだったかもしれない。しかしそこには恐らく先がなかったのだと、消えていく煙草の煙を見て私は思った。  いつだって時代は、大多数の幸福のために在って、人々に合って。  だからこそ人は、自分以外の全てを削りながら進めてきた。洗練、いや、研磨といってもいいだろうか。ともかく、人という生き物は、国は、何かを犠牲に成り立ってきたのだ。失うことで、より美しく昇華していったのだ。  だが『彼』は、それを許さなかった。自らの行いに、本当の意味での未来が無いことに気付いていたのだろう。未来を与えられるのは、常に前を向いたものだけだから。捨て去られた物をいくら救い上げたとて、その先に待つのは安らかな停滞と少しの慰めだけで。  だとすれば、一体どんな気持ちだっただろうか。悲しみを抱え込んで、それでも一人きりで歩いた『彼』は、どれだけの孤独を抱えていただろうか。 「不思議なものですね」 今はここにいない、かつての『彼』に思いを馳せる私に対して、男は言う。 「え?」 「…彼もよく、そんな表情を見せていましたよ」 その言葉に、私はドキリと鼓動を強め、脈が速く走っていく。 別にやましいことがあるわけではなかったが、自分の中に確かな『証明』が残されているのだと思うとたまらなかった。  ずっと、自分の中で『彼』は真っ白な存在だったから。 ◆◆◆◆ 「君に目元がそっくりだ」 男は自分の友人について尋ねてきた女性を見送った後、ソファーベッドへと深く腰掛けて少しだけ昔を思い出した。 ほのかに残る彼女との時間が、やはりかつての『彼』と重なって思えた。
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