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 少しだけ前の話をしよう。 「昨日パパに動物園に連れてって貰ったの!」  声を弾ませて満開の笑顔を咲かせたのは、私の友人である女の子だ。  どうやら休日に父親と遊びに出掛けたらしく、休み明け早々に私を見つけるや否や、その事について自慢気に話にきた。  始めは可愛げもあったというか、もちろん羨ましく思いもしたが余りにもしつこいものだから、私はつい邪険にあしらってしまった。 「……何よ!どうせ何処にも行ってないだろうと思って話したのに!」  私の態度を受け、笑顔を閉ざした女の子はそう言い放った。  随分な言い草だ。そもそも私が休日の間、何処にも出掛けていないと決めつけている。しかしながらそれは当たっていて、その事実が私の心を締め付けていく。  私は女の子に対して、半ば八つ当たりの感情をぶつけてしまう。女の子に悪気があった訳ではないだろう。そういう子では無いと私も分かっていた。これは単に、私自身の問題だ。だって私は、私には、 「私と違ってパパ居ないくせに!」  女の子は、大きな声でそう叫んだ。  耳に届く大きさよりももっと大きな声は、私の脳を思いきり殴り付ける。  多分私は、この子に嫉妬していたのだ。 『大きくなったら、私も父さんみたいになる』  母が言うには口癖はずっとそれだったらしい。  らしい、というのはこれは私がずっとずぅっと小さな頃の話だからだ。その頃はまだ父が居て家族三人で暮らしていたというが、残念ながら私の記憶の中に、父の声も笑顔も残ってはいない。  しかし父がいないからといってそれで寂しさを覚えることはなかった。家に帰ればいつだって母が笑顔で迎えてくれて、私を抱き締めてくれたからだ。  だから父がいなくても、幸せだった。ただ時折、妙な空しさを覚えた。  何かが欠けているような、何かを求めてるような、そういう類いの物だ。  きっとそれは私の中に父が残っているからなのだろう。あの大きな手のひらが私を撫でて、逃がさないように繋ぎ止める。  その熱を知っているから、私は父を求めたのだろう。
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