10月・巨人、大鵬、卵焼き

2/7
前へ
/72ページ
次へ
 野球のファンは 地元の中日ファンと、子供のころから黄色いYGの野球帽をかぶることが常識で、「巨人、大鵬、卵焼き」が日本の常識として語られ、テレビアニメの「巨人の星」に触発された熱狂的な巨人ファンにクラスは二分され、試合の翌日は一喜一憂しそれぞれのファンが向かい合う日々が続いていた。 10月20日には世紀の一戦と言われる優勝を左右する地元の中日とあと1勝で優勝を達成できるところまで来た阪神の試合の日を迎え、試合会場となる中日球場周辺の盛り上がりは夕方のニュース番組などでも伝えられ 注目の試合となり、旋達、中学生の間でも大きな話題となっていた。  デーゲームの広島カープ戦で巨人が敗れたために 中日球場で行われる 阪神 対 中日の試合で 阪神が勝てば優勝が決まるところまで来ていて、巨人の優勝を阻止することが出来る野球界最大の試合が一刻一刻と迫り運命の日は大きな盛り上がりを見せていた。  夕方から始まったテレビ中継放送での試合展開を 旋は隣に住む同級生の近藤正志とともに大騒ぎしながら見つめていた。正志は大の巨人ファンで 毎年のように秋になると巨人の優勝を自慢し、中日ファンの旋はいつも卑下されて中日の事を馬鹿にされるのが癪に触っていたが、今年だけは正志に一矢を射る事が出来ると試合を見ながらワクワクしていた。  中日の先発はエースの星野仙一、巨人キラーの球界の暴れん坊として有名であったが、星野としては自分が阪神を破ったとしたら また巨人が優勝してしまう可能性に悩ましい事態であったであろうと思われた。 「いいぞ いいぞ 星野様、様じゃん!」  正志は星野の好投を前にして歓声を上げていた。 いつもなら 巨人キラーとして大嫌いな星野の存在が この日だけは逆に阪神の前に立ちはだかる大きな岩のように見えたのだ。     
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加