11月・合唱コンクール

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 3年4組のクラスメイト全員で中学からほど近い場所にある 山村先生の自宅に押し寄せて リビングに置かれたグランドピアノを取り囲んで合唱コンクール前の3日間の集中練習に励んだ。 選んだ合唱曲は1971年にフォークグループの赤い鳥が歌った大ヒット曲の「翼をください」だった。  女生徒たちの調和のとれたコーラスを崩してしまうのが 変声期の真っただ中にある男性陣の声で、何時も3人ほどの男子生徒がその合唱ではネックとなっていた。ハーモニーがはもっていると言えなくもないが、小学校の頃ならソプラノではなかったかと思える美声を響かせていた同級生たちが、いつの間にかテノールを通り越して バスの音域になっている者も多く、それに音階が安定しないダミ声が混ざり合って、自分たちで聞いていても決してきれいなハーモニーを奏でているとは言い難い苦しさが次第に練習の中に苦しい時間を作り出しているのが判るようになった。  合唱コンクールのリーダー格で、中学の3年間クラブ活動で合唱部の部長を務めていた 河合美幸がポツリとつぶやいた。 「無理して 男子が声を出そうとするよりも 口パクの方がよいかもしれない・・・・」  この言葉には 自分達でも足を引っ張っていると自覚している2、3人の男子生徒がうなづいた。 「みんな、ごめんな。みんなのハーモニーを俺がぶっ壊しちゃって・・・」 「俺、口パクで行くから、歌っている様に見せるの上手いんだぜ、まかせとけよ。ばれないから。」     
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