昭和48年・春

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映画の「小さな恋のメロディー」の主役、トレーシー・ハイドはすごく可愛くて、映画の中の少女に恋をしてしまうほどの理想の少女で、映画を見た男の子たちのハートを捕まえて離さなかった。この映画の主役の名前からラジオネームを取った 秘密のメロディーにはその想像上のイメージでも映画の主人公に被せてしまい 旋にとっては魅力的な女の子に感じてしまうのだった。  旋は、名古屋のラジオ局に向けてリクエスト葉書を出していた時からラジオネームを「怪傑黒頭巾」で通していた。  国語教師の近田先生が推奨した芥川賞作家の庄司薫の三部作を読んだ時、70年安保闘争で学生たちが直面した東大紛争や全学連の学生たちが立ち向かったその歴史や背景を理解する事は難しくて出来なかったが、三部作の中で「怪傑黒頭巾」という名前だけはなぜか耳にこびりついた。「怪傑黒頭巾」というキャラクターは旋にとっては小学校の低学年だった頃の人気のテレビドラマだったらしかったが、ドラマの内容については全く知らない物だった。小学校時代のヒーローと言って頭巾をかぶった人気者は「怪傑ハリマオ」や マスクをした「仮面の忍者 赤影」、「江戸川乱歩シリーズの明智小五郎」の怪人二十面相が浮かんだが、どちらかと言えば悪役のイメージがあった。 顔を隠したヒーローと言えば 仮面ライダーが思い浮かんだが、ラジオネームで仮面ライダーに関連した名前を名乗るリスナーは多く、今さらそれを使おうとも思わなかった。
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