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風の強い日に
「はい! ありがとうございます! それでは急ぎ御社へとお伺いします!」
受話器を握る手が、声が大きく震えるのが分かる。
入社して以来初めてとなる、大口商談の切っ掛けを掴むことが出来たのだ。
胸には高揚感、背中には重圧を感じながら受話器を置く。
「おい、望月。だいぶ好感触だな?」
向かいに座る営業課長が良く通る声で言った。
彼は厳しいが面倒見がよく、優しいが力強いという、そんな人だ。
「はい、アポ取れました! すぐにでもお会いいただけるとの事でしたので、これから行ってきます!」
「フォローはいるか? 何だったら予定を調整して、オレもついて行くが……」
「いえ、私だけにやらせてください! 必ず成果を掴んで戻ってきます!」
「そうかぁ……。良いだろう。お前の力を見せつけてくれ。失敗したときは、一緒に頭を下げ回ってやるから」
「はい……ありがとうございます!」
僕は意気揚々と事務所を飛び出した。
名刺よし、プレゼン資料とサンプル品もよし。
ビルのエレベーターを降りる間、入念に所持品を確認した。
武器を忘れて負けたのでは、さすがに面目がたたないというものだ。
向かうは渋谷。
新宿からは目と鼻の先だ。
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