風の強い日に

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自社ビルのエントランスより、気持ちを引き締めて、いざ出陣! ……と、いきたかったのだが。 「か、風が……ッ!」 とてつもない突風が行く手を阻んだ。 目の前にあるのは見えない壁、いや、雪崩か何かだ。 街のあらゆる物が暴風に弄ばれ、濁った空を泳ぐ。 誰かのジャケット、看板にポリバケツ、重たそうなトランクが物理法則を無視して飛び去っていった。 さっきの光景は他人事じゃない。 僕は柱にしがみつく事で難を逃れているが、まさに明日は我が身という窮地。 自分も同じように飛ばされるのも時間の問題と言えた。 「帰ろうかな……でも、課長の信頼を裏切りたくはない!」 先ほどの嬉しそうな顔を思い起こせば、撤退なんかあり得ない。 どうにかして約束の場所へと向かうしかなかった。 だが、どうやって……? 手段に苦慮していると、ふと課長の教えが頭を過った。 「いいか望月。営業はな、アポをとったなら必ず刻限までに商談に向かえ。話し合いの前から信用を落とすような真似をするな。這ってでも良いから進むんだよ」 その言葉に閃いた。 さっそく地面に這いつくばり、風の抵抗を減らしてみたのだが、どうだろう。 体に受ける圧力がグンと弱まったではないか。 「さすがは課長! こんな状況をも想定したアドバイスだったのですね!」     
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