1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
自社ビルのエントランスより、気持ちを引き締めて、いざ出陣!
……と、いきたかったのだが。
「か、風が……ッ!」
とてつもない突風が行く手を阻んだ。
目の前にあるのは見えない壁、いや、雪崩か何かだ。
街のあらゆる物が暴風に弄ばれ、濁った空を泳ぐ。
誰かのジャケット、看板にポリバケツ、重たそうなトランクが物理法則を無視して飛び去っていった。
さっきの光景は他人事じゃない。
僕は柱にしがみつく事で難を逃れているが、まさに明日は我が身という窮地。
自分も同じように飛ばされるのも時間の問題と言えた。
「帰ろうかな……でも、課長の信頼を裏切りたくはない!」
先ほどの嬉しそうな顔を思い起こせば、撤退なんかあり得ない。
どうにかして約束の場所へと向かうしかなかった。
だが、どうやって……?
手段に苦慮していると、ふと課長の教えが頭を過った。
「いいか望月。営業はな、アポをとったなら必ず刻限までに商談に向かえ。話し合いの前から信用を落とすような真似をするな。這ってでも良いから進むんだよ」
その言葉に閃いた。
さっそく地面に這いつくばり、風の抵抗を減らしてみたのだが、どうだろう。
体に受ける圧力がグンと弱まったではないか。
「さすがは課長! こんな状況をも想定したアドバイスだったのですね!」
最初のコメントを投稿しよう!