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新たに教わった気分になりつつ、匍匐前進の要領で進む。
目指すは新宿駅だ。
時おり、悲鳴や怒号にも似た声が聞こえてくるが、全ては暴風によって吹き飛ばされていく。
周りの様子が気になるが、今は1歩でも前へ。
明るい未来に向かって邁進しなくてはならないのだ。
「駅が……見えた!」
ようやく駅前にやってきたのだが、ここでは広大なロータリーを迂回しなくてはならない。
このまま突っ切ろうかとも思ったが、その判断は危険に過ぎた。
というのも、風に煽られたバスが横転して転げ回り、陸にあがったドジョウの如く暴れているからだ。
時間は惜しいが、遠回りせざるを得なかった。
「これ、電車に間に合うのか……」
焦れる心を必死に宥めつつ、一歩、また一歩と進んでいく。
風は尚も強くなる。
もはや前進する事すら危惧されだした、まさにその時だ。
「わああぁーー!」
一人の中年男性が、凄まじい勢いで目の前を通りすぎ、空の彼方へと飛ばされていった。
その人物の顔を一瞬だけ見たのだが、見覚えがあるものだった。
僕はビジネスバッグをしっかりと手に握り、身を起こして立ち上がった。
すると、瞬時に風に拐われ、大空へ向かって打ち上げられた。
視界に先ほどの中年男性を捉え、風を制御しながら側に寄っていく。
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