風の強い日に

4/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「すみませぇん! あなた、株式会社オモッティーヌの磯辺部長ではありませんか!?」 「そ、そうだが。君はどなたかね!?」 「私はぁ本日お時間を頂戴した、ムキムキ有限会社の、望月と申しますぅーー!」 空気の渦、いや竜巻の中に居るかのようだ。 互いに上手く向き合う事ができず、撹拌(かくはん)されるようにして、空を漂い続けた。 だが、僕も一端のビジネスマンだ。 会社の名前を背負っている以上、どんなシーンにおいても、失礼だけはあってはならないのだ。 「こちらが、私の名刺にございます……」 名刺入れを開いたが、風に煽られて、手持ちの物が全て空に投げ出されてしまった。 だが相手も歴戦のビジネスマン。 切りもみ状態になりつつも、無数に散らばる名刺のひとつを見事掴みとってくれた。 「早速ではございますがぁ! 弊社の製品の説明をさせてくださいませぇぇ!」 「どうやって、見れば、良いのかねーー!?」 「先ほどのお名刺の要領でぇ! こちらをご覧くださいぃ!」 バッグを開くと、今度はプレゼン用の資料が、羽でも生えたかのように灰色の空を舞った。 だが今度は上手くいかなかった。 突如として風向きが変わったからだ。 あらぬ方向に資料は連れ去られ、いずこかへと消えた。 これには早くも窮地に陥ってしまう。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!