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「すみませぇん! あなた、株式会社オモッティーヌの磯辺部長ではありませんか!?」
「そ、そうだが。君はどなたかね!?」
「私はぁ本日お時間を頂戴した、ムキムキ有限会社の、望月と申しますぅーー!」
空気の渦、いや竜巻の中に居るかのようだ。
互いに上手く向き合う事ができず、撹拌(かくはん)されるようにして、空を漂い続けた。
だが、僕も一端のビジネスマンだ。
会社の名前を背負っている以上、どんなシーンにおいても、失礼だけはあってはならないのだ。
「こちらが、私の名刺にございます……」
名刺入れを開いたが、風に煽られて、手持ちの物が全て空に投げ出されてしまった。
だが相手も歴戦のビジネスマン。
切りもみ状態になりつつも、無数に散らばる名刺のひとつを見事掴みとってくれた。
「早速ではございますがぁ! 弊社の製品の説明をさせてくださいませぇぇ!」
「どうやって、見れば、良いのかねーー!?」
「先ほどのお名刺の要領でぇ! こちらをご覧くださいぃ!」
バッグを開くと、今度はプレゼン用の資料が、羽でも生えたかのように灰色の空を舞った。
だが今度は上手くいかなかった。
突如として風向きが変わったからだ。
あらぬ方向に資料は連れ去られ、いずこかへと消えた。
これには早くも窮地に陥ってしまう。
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