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あの聞きなれた旋律が時計塔から流れ始めると、ああ、今日もこの時間だなと思う。いつもの時間だ。わたしは毎日この時間、このベンチでこの時計塔を眺めている。
最近、この時計塔の怪談話が、通学の際、駅を利用する子供達の間でささやかれていることを知った。夕食時の会話で、ふいに飛び出した。
「ママ、あの時計塔から出てくるオルゴールのお人形、時々あの中から出てくるんだってー」
時計塔のミニチュアが飛び出してくるとは。都市伝説のようなものであろう。メルヘンチックな時計塔に相応しい、可愛らしい話だと思ったので、「へえ、いいね」と答えておいた。
「いいわけないよー。怖いじゃない。ママおかしいよ」
「えー、可愛いと思うんだけどなー」
寒い。コートの首から冷たい冬の空気が入る。早く駅から出て来ないだろうか。
駅の構内は込み合っていて、入ってゆく気にはとてもなれない。
何をやっているんだろう、だらだらと温かい駅の中でだべっているのだろうか。早く帰って夕食の準備を済ませてしまいたいのに。わたしにも都合があるのに。
らったった、らったった。
ろんろんらったった。
時計塔の人形はくるくる回り続ける。音楽が終わるより早く、来てくれないだろうか。
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