時計塔

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 その時、すっと、隣に人が座った。妙な感じがしてみると、やけにカラフルな服を纏った、ちょっと異国情緒漂う老人がにこにことわたしを見ているのだった。  白い息があがる。  いつの間にか、時計塔のオルゴールは鳴りやんでいた。  「やっと臨時の交代が見つかりましてね、ああ、久々に」  老人は言う。白い息がのぼる。空は暗い赤に燃え、徐々に群青色の夜を迎えつつあった。  交代。お仕事の話だろうか。  それにしても、いきなり話しかけてくるなんて。  わたしは薄気味悪く老人を見た。だけどおかしなもので、初対面な気がしない。見れば見るほど、どこかで見たことがあるように思えるのだった。  「なに、少しの間です。お宅さんにも都合があるでしょうからね、ほんのちょっとの間、お借りするだけですから」  ごくまれに、時々、お借りすることがあるんです。本当にね、申し訳ないと思うのですけれど、こうでもしないと、とても外には出られなくて。  老人は頭を下げた。そして、立ち上がった。どこの国のひとだろう。本当に目が覚めるほどカラフルだ。年末に向けて、なにかのイベントの仕事があるのだろうか。それにしても、かなりの高齢に思えた。  老人は羽根つきの帽子をとって、もう一度お辞儀すると、急ぎ足で去った。  忙しい夕暮れ時の雑踏の中にその姿は消え、あっという間に見えなくなる。  一体なんだったのか。     
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