時計塔

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 ぼんやりとしてわたしは首を傾げる。なにか頭に靄がかかったような。それにしても、わたしは老人になにを「貸し」たのだろうか。  どれほどの時間がたったろう。  わたしは慌てて席を立つ。空にはもう一番星が輝き始めており、駅前はネオンがともりはじめ、夜の繁華街の賑わいがここまで届くようだった。  (早く帰って支度しよう)    そういえば、わたしは何をしていたのだろう。  重大な忘れ物をしたような気がして、たった今まで座っていたベンチを振り向く。  ざわざわと賑やかに、マフラーをした高校生の一団が駅から溢れてくる。塾帰りの子供たちを迎える母親たちの車が駅に詰めかけている。遅かったじゃないの。ごめんごめん、ちょっと友達と話していたから。もう、待ってたんだよ。イライラする母親と、舌を出していそうな子供の会話が聞こえる。  わたしはそれをぼうっと聞き流しながら、なにか奥歯にものが引っかかったような気持ちで歩き始めた。  かちゃっと音がしたので見上げると、今まさに時計塔の扉が開き、あのミニチュアの楽団が飛び出そうとするところだった。  らったった、らったった。  ろんろんらったった。  十五分おきに鳴るこの時計塔、できた当初はうるさいとか、しつこいとか、不評だったのだけど、いつの間にか駅前のシンボルになった。     
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