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それから1週間は俺も白色をなんとなく意識していた。
しかし身近にある白色には何も変化はなかった。
俺は大統領としての多忙極まる日々を過ごすうちに、この悪魔との契約のことなどすっかり忘れてしまっていた。
「大統領、次回の国際会議では当社のプロダクツを是非推薦して頂きたく…」
「いやぁ大統領、うちなら中国製品にコスト競争力でも負けません。いつもの料亭でまたお話しますよ」
各企業のトップからのロビー活動、うんざりだ。
しかし無視することはできない。
俺自身が日本国代表としてやっていることも同じことだ。
相手国の大統領が寿司に目がないと聞けば最高級寿司のプレゼントし、柴犬が好きと聞けばトップブリーダーから買い集める。そしてどんな時でも決して"お土産"を忘れない。
日本国が世界に対して発言力を持ち続けるためであれば、自らの汚れなどは取るに足らないことだ。
全てはこの国の未来のために。
そうか…!
俺は気付いてしまった。
俺は確かに白を失っていた。
かつて自分の生き様だった清廉潔白という言葉は、もはや自分の中には微塵も残っていない。
しかし、これで良いのだ。
俺はほくそ笑んだ。
権力者には潔白なんてものは無用なのだ。
野望を成し遂げることが出来るのであれば、汚れようが穢れようがなんてことはない。
悪魔が奪った白という色、俺にとっては結局不要な色だったということだ。
権力者になれば必然的に失うであろう色を敢えて奪うなどと言ったのか。悪魔にしては皮肉が効いているじゃないか。
「大統領、少し気になることがございまして…」
秘書が神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。
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