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第2章 奪われたものは?
「何か問題でも起きたか?」
「はい、週刊文冬が大統領の収賄疑惑について記事にすると言ってきています。もちろん根も葉もない噂だと一蹴しておきましたが」
「それでいい。そんな汚い真似を俺がするわけが…………」
!?
なんだ!?
言葉を出そうとしても何かが胸につっかえている。なにか頭にモヤがかかってきたようで、思考が曖昧になるが、口だけが流暢に動き出した。
「俺は野望を実現するためなら何でもする男だ。金で解決するならそれが一番じゃないか。収賄のための金なんぞたいしたことはない。私が金を出すときは、そのネタが莫大な国益に繋がると確信しているときだけだ」
俺は自分の口を止めることが出来ない。
秘書の言葉に対して俺はシラを切ろうとしていたはずだが、全く逆の、真実を話してしまった。
そうか……。
シラを切るとは、白を切るとも書く。
白を奪われたことで、俺はもうシラを切ることが出来なくなったということか。
「大統領…」
秘書が言葉を詰まらせた。
俺はどうやってこの秘書を懐柔すれば良いか、頭をフル回転させる。
秘書は続ける。
「大統領、私も同じ考えです。国益の前には正義など無意味。裏の仕事は私に任せて頂き、大統領は表舞台で心置きなくその手腕を振るって下さい!」
秘書は丁寧に頭を下げ、部屋から退室した。
どうやら俺の取り越し苦労だったようだ。
寧ろ本音を話したことで、あの秘書の忠誠心はより確固たるものになったようだ。
しかし、一瞬ヒヤッとしたな。
気づいていないだけで他にも失っていることがあるかもしれない。
面白い
白ける
白々しい
自白
……
もともと面白いと言われたことなど一度もない。だからか、今まで全く気がつかなかったな。
今思いつく他の言葉のどれも俺が大統領としてこの国を導くうえでは不要なものだ。
何も問題はない。
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