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、魔女の元に風の知らせがやってきた。
『海の方で貴女の愛しき人が襲われている』
そう、風が教えてくれた。
魔女は箒を走らせ、その場所へ飛んだ。
魔女の愛しき人は崖に追い詰められていた。追い詰めている相手はわからない。だが、躊躇う理由などない。愛しき人を守らねば。
魔女は風を操り、追い詰めている相手を愛しき人から遠ざけ、相手が遠のいたその隙に魔女は愛しき人の盾になるように立ちふさがった。
よく見ると、追い詰めていた相手は昔、魔女を愛していた男だった。力を持った貴族で心から魔女を愛した。だが、その愛し方は異常だった。魔女を部屋に閉じ込めてありとあらゆる方法で魔女に触れた。誰かを魔女が愛すると、彼は酷く嫉妬して魔女を傷つける。そんな男に嫌気がさして魔女は男の足を吹き飛ばしてしまった。痛みに喘ぐ男を置いて逃げてきた魔女は今の心優しい男と幸せに暮らしていた。
だから魔女はその男とはもう会いたくなかった。
男は魔女を見て
「また俺を愛してくれないか?」
と、魔女の目を見て言った。
魔女は答えることもなくただ、見つめ返した。
「……どうしてだ?俺の何がいけない?金もドレスも何もかも与えてやったのに」
それは嘘だ。他の誰かと勘違いしている。いい加減にしてくれ。私はもう、誰かに振り回されたくない。誰の色にも染まりたくない。
魔女は懐から銀のナイフを取り出して、美しく舞い踊った。そして冷たい瞳のままそれを男に突き刺した。赤い血の滴る男はそのまま海へ落ちて泡になって消えてしまった。
魔女は何の哀しみも覚えず、ただ愛しい男を見た。
そして、甘いキスをした。
私が男に染まるのではない。男が私に染まるのだ。その為に白はある。ようやく私は気づくことができた。自分が白を嫌う理由。それは自分が何色かわかってしまうからだ。誰かに支配されていた時の主人の色、誰かを殺した時の赤い血の色、自分の心の醜い色、それら全てがよく見える白を私は好きになれなかったんだ。嫌いだったんだ。だから私をよく写す鏡の白が嫌いだった。私が私を嫌っていたから白が嫌いなんだ。
ああ、ようやくわかった。ならば今度はその白を好きになれるよう努めよう。誰の血を見ることもなく自らの罪を受け入れてただ、純真に。真っ直ぐに。
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