リセールチケット

　ライブハウス、ドーム、コンサートホール、年間でどれだけのイベントが開かれているか、そんなことは俺たちにも予測はできない。ただ売りさばくだけだ。売れそうなチケットは多めに買うし、そこそこなら控えめに買うし、落ち目なら買わない。世の中は冷たいもんだからな、人気がなくなれば自然と、転売目的で買う人間は少なくなるさ。

　あんた、〇〇ってバンド知っているか？日本でも有名だ。ああ、知っているか、親父さんがファンなのか、えらく若ぶった親父さんだな。

　俺たちの間じゃ、〇〇のチケットだけは転売しちゃいけねえって噂がある。
　いつからだって？俺も最近始めたばかりだから、又聞きなんだが、興味あるかい？
　そうか、じゃあ俺の知っている限りで話そうか。

　〇〇っていうバンドは、欧州から人気に火がついて、世界中にファンが増えた。メンバーにひとり、髭が濃い奴がいただろう。ピアノがうまくて声が高い男だ。あいつは誰よりも、ファンと音楽を愛していた。オークションに出された、ライブチケットは買わないように増刷し、呼びかけていたぐらいだ。純粋に楽しむファンを、悲しませたくないからと、涙ながらにね。まあ、俺たちにはやかましい存在でしかないが……おっと失礼。

　話を戻そう。そいつは、バンドのライブがあるたびに呼びかけた。人気沸騰時は今みたいにインターネットやスマホなんかなかったから、新聞広告やレポーターによるテレビの取材、ラジオの収録で呼びかけた。チケットは増刷して、正規販売部数を増やす。転売チケットは買わないようにしてほしい、もし買った場合は申し訳ないが、会場に入れることはできないと。正規に購入したファンが悲しまないよう、どうか協力してほしいと必死に動いた、働きかけた。俺たちの胸がたまに、ちくんと痛むぐらいまで。