リセールチケット

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 だが、世の中はそんなにうまくはいかねえ。  耳が痛いから、消してしまえばいい。今でいう「逆切れ」みたいなことをやっちまおうとした連中が、苛立ちを募らせた。  片言でも外国語ができるんだ、賢いあんたにはわかるだろう?  財布が薄っぺらくなって、頭に血がのぼった奴らは、正論に満ちた慈愛あふれる男を病院送りにしちまった。  切りつけて、バットで殴って、二度と起き上がれない身体にしやがった。ニュース速報かなにかで、あんたも記憶にあるんじゃないのか?そうさ、その男だよ。かわいそうに、今じゃようやく首から上が動かせる程度さ、袋叩きにした奴らは行方がわからねえ。おそらく、どこかで普通に暮らしているんじゃないかって、俺は思うけどな。  バンドは、残ったメンバーでどうにか活動を続けている。人気は衰えずに、毎年どこかで、でかいライブをしているさ。当時若者だったファンも、みんな中年になっちまった。時は流れて、奇特な男だけが、病院のベッドに置き去りにされたままでな。  問題は、チケットだ。  人気があって、でかいライブをやる連中だから、当然転売目的で買いあさる奴が出てくる。ここまでは、世の中にある決まり事だ。  だが、そのチケットが自分ちに来たとたん、次々と不幸に見舞われるそうだ。  例えばタンスの角に足の小指をぶつける、スマホの画面に派手なヒビが入ってブラックアウト、そんなかわいいものから酔っ払い運転をしている車に轢かれそうになったり、階段から真っ逆さまに落ちて足をくじいたりと、散々なものまでバラエティ豊かだ。  寝るときだって、ぐっすりと眠りたいはずなのにベッドが揺れたり、窓ガラスが割れたり、壁をドンドンと叩く音が一晩中続く。神経が図太くなくちゃできない仕事だからって、毎晩毎晩苦しめられたら、そりゃ頭がどうにかなっちまう。
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