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四十三人目
その転校生が現れたのは先週だった。
名前も見た目も平凡で、まったく印象に残らない男子生徒。
四十二人のクラスだから、一列七人の席が六列あるのだが、窓際の最後尾席にいた俺の後ろに、一つだけはみ出す形で転校生の席は設けられた。
教科書とかは揃っているらしく、何か貸してほしがる様子はない。
ただじっと授業を聞いていて、どういう訳か、休み時間になるとどこかへいなくなってしまう。そもそも印象が薄すぎて、いてもいなくてもあまり気にならない。だから最初はあれこれ話かけようとしていたクラスメイト達も、次第に声をかけようとしなくなり、転校生は誰とも打ち解ける様子がないまま、ただ授業を聞くためだけに教室に現れているといった感じだ。
それはそれで転校生の自由だから構うことはないのだけれど、後ろの席ができてから、どうにも俺の体調がすぐれない。
本当に静かな奴で、後ろに人がいることを忘れてしまうしまいそうになるくらい存在感がない。でもたまに、やたらと強烈な視線を感じる。
話しかけられている訳じゃないから視線は気のせいかもしれない。でも本当に、やたら見られていると思う瞬間があって、その強い視線を感じた後には、体育で一時間ずっと走り続けさせられたような疲労感に見舞われるのだ。
「なぁ、誰か俺と席替わってくれよ」
休み時間、冗談交じりに友達に訴えてみるが、今まで、窓際の一番後ろなんて羨ましいと散々言っていたくせに、誰一人応じない。建前上は、理由もなく席を替わったりしたら先生に叱られそうだから、と言っているが、みんなしてあの転校生の前の席へ座ることを避けている節がある。
結局俺の発言は聞き入れられず、次の授業でも、たまに感じる強い視線に疲弊感を募らせていたのだが、ついに視線を感じる以上のことが起きた。
「…って」
その声は、多分俺にしか聞き取れないくらいのごく小さなものだった。
転校生が俺に話しかけてきている。でも声をかけられているのは判るのに、どうしてか、背後を振り返りこちらから声をかけるという真似ができない。
「…って」
よく聞き取れないけれど多分同じことを言われた。その声が響くだけで背筋が震える程に冷たく凍てつく。
何かを訴えられている。でもそれはうなずいてはいけない類のものだ。
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