四十三人目

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 ざっと目を通しただけで下らないと判る内容に、俺は呆れてスマホをいとこに突き返した。  転校生は不気味だけれど、さすがにこうまで訳の判らないオカルト話とごっちゃにするのは無理がありすぎる。  そもそも、四十二人が『しにん』で、四十三人はそれを超えた数って、語呂合わせのダジャレにしてもレベルが低すぎだ。  いとこはまだ何やら書き込みの続きを読み上げていたが、ろくに聞く気も起らず、俺は自室に引き上げた。…でも後になって、いとこがこの時家に来ていたことを、俺は深く感謝することになったのだ。  翌日も、登校した時にあの転校生の姿はなかった。  遅刻こそしないが、いつもホームルームが始まる寸前まで姿を現さない。もちろん今日も。  いつの間にか席に着いていて、ひっそりと授業に参加する。強い視線を感じるけれど何かしてくることはない。昨日の最終授業までは確かに毎日そうだった。 でも昨日から転校生の行動は変わった。 「…って」  また何かを訴えてくる。それが聞こえると、振り向きたくても後ろを向けず、ただ聞き続けなければならなくなる。  授業の間中、ずっとぼそぼそ何かを話しかけられ続けるなんて嫌だ。なんとかならないだろうか。  せめてもう少しはっきりと、言っていることが聞き取れれば。そうすればこちらも何かの対応ができるかもしれない。 「…代わって」  俺の頭の中身が伝わったかのように、相手の訴えが突然はっきりした。  代わって。確かにそう聞こえた。でも、何を?  普通に考えたら座席だよな。やたらと視線を感じるというのも、もしかして転校生は目が悪くて、黒板が見づらいから前方を凝視しているため、それが俺に対する強い視線のように感じられているのかもしれない。  でもたかだか座席一つ分。代わったところでそうまで黒板の見え方は変わらない。  訴えるなら手でも挙げ、見づらいから前に行きたいと言った方が遥かに合理的だ。  でも転校生はそうはしない。ただずっと、俺に『代わって』と言い続けるばかりだ。  訴えの意図が判らないまま授業が終わる。転校生がいなくなり、どうにか俺の緊縛は解かれたが、一時間目からもうぐったりだ。  保健室へ行こうか。そうすればあのつぶやきを聞かなくてすむし。
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