ep1

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どして?」 「おいおい。 今は俺が先生なんだぜ。 聞かれたことにだけ応えるように」 「はーい」 __エリカの過去__ 「あいつらがくるんだ。 またくるんだ」 「大丈夫。 もう終わったことだよ」 小さな小屋の中、エリカがカルテに書きこむ。 統合失調症。 「でも……」 「いいかな。 今にだけ集中して。 この部屋には誰がいる?」 「……先生」 「それとあなた。 二人だけだよ」 その日20人目の患者に薬を処方し、エリカはすっかり冷めたコーヒーに口をつけた。 「いつ終わるんだろ」 エリカは戦場を見ない。 その時に、自分が正気を保っていられる自信がないからだ。 この椅子に座り、戦争に精神を汚染された同胞と対話し、対峙する。 それがエリカにとっての戦争だった。 小屋の扉が軋む。 「少し休みを取ったらどうだね、先生」 「あら、おじ様。 いらっしゃい」 その初老の男は人間だった。 「やあどうも。 しかしお構い無く。 薬の補充をしに来ただけさ」 「いつも本当に助かってるわ」 「なあに、我々はみなみなお互い様だろう。 私だって、君の患者の一人なんだよ」 「あなたが作った薬が、私の診断を通してあなたのお口に入るってことね。 ふふ、へんなの!」 男がカバンから薬を取り出し、机の上に広げる。     
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