1話

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起きたときの喉の渇きを冷たい麦茶で潤す、このときに飲む麦茶は格別である。 多分どんなときに飲む麦茶よりも美味しい、という自信がある。それくらい最高なのだ。 この話を父にしたことがあるが、到底理解されなかった。 「寝る前に水分取らないと寝てるときに脱水症状になるから程々にな」と苦笑いをしながら、父は僕に言った。 なんでみんなわからないのだろう、と思ったが、理解されないのも仕方がないか、と心の中で割りきった。 朝の廊下を素足で歩く。 一歩、一歩、足を地面につけるたびに、ひんやりと感じる。 足元が冷たく感じると、全身までもが寒くなる様に感じた。 少し急な階段を降りて、居間の扉に手をかけて、横にずらそうとするがなかなか扉が開かない。少し力を入れてずらすと「がらがら」と立て付けの悪い音と共に扉が開いた。 「おぉおはよう」 優しさのある細い声で父が言った。 「おはよう」 僕は目をこすりながら無表情に近い顔でそう言葉を返す。 「よく寝れたか?」 「うん、まぁ」 「そうか、朝ごはんは適当に食べといて」 「うん」 「父さんはこれから町の自治会に行ってくるよ。お昼前には帰るから」 「わかった 気をつけて」 僕は抑揚のない声で言う。 だいたい父との会話は、いつもこんなものだ。     
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