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別に仲が悪いとかではなくて、あまり無駄話をするという事がないだけだ。
父の名前は、橋本健一。市役所に勤めるいわば地方公務員だ。普段は平日が仕事であるが、今日は平日だが多分有休でももらって今日が休みなだけなのだろう。
父は見るからに優しそうな顔をしている。しているよりも本当に優しいのだ。
父は小さい頃から優しかった。
少しよそよそしい感じはあるが、特に父に怒られた記憶が殆ど無いくらい怒られたことがなかった。
だが一回だけ怒られたのを覚えている。
それは僕が小学校四年生の頃、公園で捕まえたトノサマバッタを家に持って帰って、遊んでいる時だった。
僕はある衝動に駆られた。
その衝動は、このトノサマバッタの脚を取っても、果たしてこのトノサマバッタは飛ぶことができるのだろうか、というものだ。
「そんなことしたら可愛そうだ」と僕は自分に言い聞かせながらも、トノサマバッタを手に持ち、腹を自分の方に向け、脚に手をかけてみた。
少しザラザラしていて、爪と思われるところはよりザラザラしていた。ザラザラというよりチクチクとしていて、脚が動くたび指に痛覚を刺激するものがある。
少しの力で引っ張ってみると、今にも取れそうな感じがしたが、なかなか取れない。
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