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「俺はどうすれば?」
ジェファーソンが手を上げる。
「君は、そうだな。独自の観点で捜査をしてくれ」
要は、特に仕事はないと言うことだ。
「はいはい。分かりましたよ」
大きな会議室は、ジェファーソン一人になった。彼は、検死報告書を精査していた。
「また、独りぼっちですか?」
コーヒーカップを回収しに来た事務局員の女性、キャサリンが声を駆けてきた。
「ああ、この十年ずっとこんな感じだ」
「ひどいですね」
「そうでもないさ」
ジェファーソンは、飲み干したコーヒーカップを彼女に渡す。
「自業自得ってことだ」
1983年。カリフォルニア州にあるマーティン保育園の園児が、保育園での虐待を母親に訴える。園児の肛門にはひどい裂傷が見られ、医師の診断書を持った母親が、警察に通報、一部の捜査官が情報をリークし、自体は広く知られるようになった。厄介なのはそこから、、、事件はただの虐待事件ではなく、いつからか悪魔崇拝者たちによる組織的な犯行という話になり、全米を巻き込む大事件となった。この事件の主担当が、当時、出世街道まっしぐらだったジェファーソン刑事である。
熱血の彼は、保育園の職員に対して、壮絶な尋問を行い、被害者である園児たちを誘導尋問した。彼の恫喝に耐えかねて、職員は嘘の証言を繰り返し、まともな判断ができない園児たちは、彼の言う通りの証言を繰り返した。
しかし、得られるのは証言ばかりで、物的証拠がない。
裁判は混乱、長期化した。だが、ついに終結する時が来た。
「○○君。君を傷つけたのは誰だい?」
弁護人は、被害者の子供に数枚の写真を見せる。
「この人です」
事件発生から時がたち、ハイスクールに入学した子供が指さしたのは、有名な悪役俳優の写真だった。
こうして、全米史上最悪の虐待事件は、全米史上最悪の冤罪事件となった。最初に保育園を訴えた、母親は、その後、精神を病み自殺する。
当時、主任だったジェファーソンは、その後、冤罪被害者たちに訴えられる。多額の賠償金が警察組織から支払われ、事態は収束したが、当時の部下たちは、全員辞職した。ジェファーソンの居場所は、もうなかった。しかし、彼は辞めなかった。理由は、自分でも分からない。正義感や償いや、後悔、様々な感情が混ざりあい、一言二言では言い表せない。とにかく、彼は警察をやめなかった。
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