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がたがたとズボンを引き上げ、逃げるように居間を飛び出しそのまま玄関に向かう。
背中に結さんの声を聞いた気がしたけど、止まれなかった。
外に飛び出し、やみくもに走り出した瞬間誰かにぶつかり尻餅をついた。
「ってぇ、なんだ。お前か」
頭上から聞こえる聞き覚えのある声。顔をあげると時任さんが立っていた。
「お前、なんだその顔」
「・・・・・・っ」
俺はなにも答えず立ち上がると横をすり抜け飛び出していこうとする。
時任さんがそんな俺の腕を慌てたように掴んだ。
「ちょい待て。これは絶対逃がしたらダメなやつだろ」
「は、放せっ」
「放すか、アホ。なにがあった」
「やだ! 放せ! 放せってば!」
結さんに追い付かれたら。追ってもくれないかもしれないけど、それでも、もう合わす顔なんてない。必死にあがいてもがいても、時任さんは放してくれない。
唇を噛んでうつむくとぼたぼたと涙の滴が落ちていった。
「あー、もう。ほら、うちいくぞ」
「え・・・・・・」
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