1. 記憶の爪痕

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1. 記憶の爪痕

 温かい、とレイは感じた。  その熱の方へとベッドがわずかに傾いでいる。まぶたをゆっくりと開けば、均質な灰色の天井が見えた。ここは自分の家だ。その確信だけをもって身体を起こし、右側に首をめぐらせる。同時にちいさく身震いをした。急にさらされた素肌に冷たい空気が触れたからだ。  右隣には裸の男がうつ伏せで寝ていた。シーツは乱れ、腰のあたりまで引き下がっている。顔は見えない。枕代わりに頭の下に置かれた右腕は筋肉が浮き上がり、なめらかな肌は日に焼けていた。しかし、それよりも投げ出された左腕に視線が吸い寄せられる。  男の左腕は機械でできていた。肩から指の先まで、人工の皮膚にも覆われることなく金属が抜き出しになっている。複雑に組み上げられた鉛色のパーツが、弱く灯された照明の下でざらついた光を放っていた。  と、その指先が小さく跳ね、低い呻き声とともに丸められた。 「あー……やっちまった」  うつ伏せたまま両腕で頭を抱える男を、レイは黙って見つめる。短く刈られた黒髪に、鉛色と人肌の色が重なっている。美しいコントラストだ、とレイは思った。自分の白い手を目の前にかざし、視界に色を加える。     
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