1. 記憶の爪痕

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 伸ばしたレイの指先が触れるよりも先に、男がレイを見た。切れ長の目から放たれるまなざしに、鋭さはない。むしろどこか面白がっているような気配がある。 「俺が誰だか、わかるか?」  投げかけられた質問に動きを止める。首を横に振ると男は「だよなぁ」とつぶやき、レイの腕をすり抜けて身体を起こした。裸のまま、すたすたと部屋の奥へと歩いていく男の背中を眼で追う。無駄なものが一切ない引き締まった背中には、機械仕掛けの左肩から右腰にかけて一筋の大きな傷跡が残っていた。    水の流れる音が止まる。レイはちいさく息を吸った。どれくらいの時間が経ったのか気づかないほど、身じろぎもせずに奥の扉を見つめていたのだ。 「悪い、タオル借りた」  そう言って、髪から滴る雫を拭いながら男がシャワールームから出てきた。ベッドの下に投げ出された服を拾っては身に着け、残りをレイがいるベッドへと放り投げる。 「っ――」  受け止めようと身体を動かしたとき、腰に鈍い痛みを感じた。シーツを持ち上げ、自分が裸であることを念のため確認する。 「これは、つまり」  レイは喉が少しかすれていることにも、今更気がついた。 「私はあなたとセックスをしたということですか?」     
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