6. はじまりの鐘

11/15
前へ
/58ページ
次へ
 子どものような純粋さで手にしたおもちゃを振り回している。そんなイオリの調子にケントはめまいがしそうだった。 「しかし、君という存在が管理局に入ってこの家に来たこと、レイが僕の予想よりもずいぶん早い段階で(ここ)に君を招き入れたことだけは誤算だった」  誤算という言葉の割には、弾むような声でイオリが言った。 「僕は、本当にすべてをレイに託していたんだ。遺したデータも、レイ自身もどうするのかを含めて。誰が訪れたとしても、レイが入れたいと思わなければ、この家の扉は開かないようになっている。でも、レイは君を選んだ。どうしてだろう……君とレイが兄弟みたいなものだからかな?」 「兄弟……」 「そう。僕は君の腕や臓器を作り、その技術はレイに引き継がれている。仲間意識でもあったのかと思ったけど、そのあたりは僕にも読み取れないんだ」  目の前に姿勢よく立ったイオリはにっこりと笑った。わざとらしい笑顔では、本当のことを言っているのかわからない。食えない人だ。ケントはイオリから本音を引き出すことをとっくに諦めていた。 「でも、君という人間と関わることで、レイは急速に、思いもよらない成長を遂げた。僕の予想を裏切るなんて、最後の実験は大成功と言って良いのだろうね!」  ケントは虚を突かれた。     
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加