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あまりにも生々しい気配に、すっかりと忘れ去っていたのだ。イオリは、すでに死んでいるのだということを。
「さて、そろそろ僕は退散するとしようかな」
そんな言葉にはっと我に返ると、澄んだ瞳がケントをまっすぐに見つめていた。
「僕が死んだ五年後程度の未来なら簡単に予測できた。この国は頭が固い人間が多い。あらゆる規制にがんじがらめになって、ひどくつまらなくなっているだろうってね。外の世界に置いていかれてしまわないように、せいぜい気をつけるんだよ」
「それは、どういう……」
ケントの言葉を遮り、イオリは指先でケントの胸をとん、と突いた。
「君たちがこれからレイをどう扱うのか、僕は楽しみでならないよ」
レイはロボットだ。しかし彼はもはや一人の人間と遜色ない存在だろう。イオリがレイに託したと言う「すべて」とは、いったい何を指すのか。イオリの記憶だけでなく知能まで引き継いでいるのだとしたら?
もしかしたら――おそろしい考えにケントは慄く。
彼は、彼と同じような存在を生み出すことができるのではないか。
それは人間にとって脅威となりうるのか。
自我をもつロボットの行動責任は誰がとるのか。彼らの道徳的、倫理的判断は誰のためになされる? 人か? ロボットか? そして彼らは――一人の『人間』となり得るのか。
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