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「せいぜい悩むがいいさ。どちらにせよ、思考を停止させている今よりはずっとマシな未来が待っているだろう」
ぷつん、と何かが弾ける音がした。
レイのうなじからのびていた細く長いケーブルが、勢いよくしなって落ちる。
最後に見たのは、イオリ自身の嘘偽りのない微笑みだった。
膝から崩れ落ちるレイの身体を抱きとめる。熱を帯びた腕が力なく垂れ下がった。
ケントは思わず胸に耳をあてる。
ちいさく規則正しい鼓動が、確かに時を刻んでいた。
*
冷たい、とレイは感じた。
まぶたをゆっくりと開けば、均質な白色の天井が見えた。ここは自分の家ではない。その確信だけをもって身体を起こそうとした。
カチャリ――
硬い音に視線を落とす。両手首、それから両足首に金属の輪がはめられている。特殊な金属だと判断した。まずレイの力で破壊することは不可能である。冷たいと感じたのはこの金属のせいだったのだろう。輪からは鎖が延び、ベッドの四隅へと繋がれていた。鎖の長さに余裕があるのを確認して、ゆっくりと上体を起こした。
ベッド以外には何もない部屋だ。左側の壁に、四角い切込みがある。扉だろうかと考えたそのとき、勢いよく切込みが開かれた。
「レイ!」
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