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通夜の晩は、お母さんやお父さんと一緒に、蓮の思い出話をしながら線香の番をした。
妊娠中の体に障る、と気を遣ってもらったけど、蓮が灰になるまで、そばにいたくて、無理を言って一緒に居させてもらった。
3人とも泣きはらした顔で、何度も涙を拭いながら、思い出を拾い集めた。
翌日の葬儀には蓮の友達もたくさん集まって、みんなで蓮を悼んだ。
出棺の時には、武士さんも棺を担いだ。
最後のお別れのとき、私はそっと蓮にキスをしたけど、武士さんも蓮のご両親も何も言わなかった。
火葬場まで同席させてもらって、お骨を拾わせてもらった。
そして蓮は、小さな骨壺の中に納まってしまった。
私を抱きしめてくれた腕も、キスした唇も、抱き締めあった体全部が、こんなに小さな骨壺の中に納まってしまったなんて、嘘みたいだった。
すべてを見届けて家に帰ると、弱々しく微笑む武士さんが待っていてくれた。
私は武士さんの腕に包まれて、やっと涙が出た。通夜の晩の涙が最後だと思っていたけど、全然そんなことなかった。
武士さんの腕の中で、私は子供のようにわんわん泣いた。
武士さんは、優しく私の背中をなでてくれていた。
きっと、自分だって泣きたいくらい辛いはずなのに、私を泣かせることを優先してくれた。
ようやく泣きやんだ頃にはもう夜が更けていて、私は武士さんの作ってくれた雑炊を食べて、勧められるままベッドで眠りについた。
夜中に目が覚めたとき、リビングで武士さんが1人泣いているのを見て、私はその背中をそっと抱きしめた。
二人とも言葉もなく、夜を過ごした。
翌朝、私は心がけていつもと同じ毎日を過ごすようにした。
武士さんを仕事に送り出して、洗濯をして。
夜には武士さんを笑顔で出迎えた。
そうやって毎日を過ごしていれば、きっと蓮の死からも抜け出せると思った。
私はひとりじゃない。
武士さんも、お腹の子もいるから。
蓮に胸を張って幸せだと言えるように、幸せになる為に、私は努力を惜しまなかった。
武士さんにそのことを話したわけじゃないけど、私の気持ちはわかっているみたいで、普段通り暮らしてくれた。
以前と変わらず、私を甘やかして、お腹の子を気遣って。
蓮の選んだ人に、間違いはなかった。
私と武士さんは、少しずつ蓮の死から立ち直っていった。
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