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「……今、なんて?」
「だから、婚約を破棄したいっていったんだ」
何度も同じことを言わせるな、とでもいいたそうに、私の婚約者、京極 蓮は言い捨てた。
「なんで?もう、式場も押さえてあるし、準備は進んでるのよ?あとは、招待状を出して式の細かい打ち合わせをしていくだけなのに」
「綾のそういうところが嫌になったんだよ」
「どういう、こと?」
蓮は、はぁっとため息をついた。
「結婚が決まるなり、どんどん話を進めていって……なんかもう追い詰められてる気がする」
マリッジブルーかよ!
突っ込みたくなるのをぐっとこらてた。
確かに、蓮の時間のあるときは蓮も一緒に、時間のないときは私一人で打ち合わせに行っていた。
レンタルするドレスとタキシードも決まっている。
でもそれは、式の日取りに間にあわせるためには必要なことで……
まさか、女性である自分ではなく、男性の蓮がマリッジブルーになるとは思いもしていなかった。
でも、男性もそれまでの自由な暮らしから急に結婚となると尻込みしたり、式の準備が面倒だから、と急に非協力的になることはあると聞く。
だから、蓮のそれもマリッジブルーだと信じて疑わなかった。
「ごめん。式の準備はまだ余裕があるし、もっと蓮と一緒の時間を作るよ」
でも蓮は、そうじゃないと言うように、首を振った。
「もう、うんざりなんだよ。このまま結婚しても、うまくお互いの妥協点にすり合わせられる自信がない。
悪いけど、うちの親も俺の意思を尊重してくれてるから」
その言葉に、私はショックを受けた。
蓮と付き合って5年。
半同棲のような暮らしをして、たまに蓮の実家に連れて行ってもらったときも、結婚の挨拶に行ったときも、あんなににこやかに迎えてくれたのに。
「とりあえず、式のキャンセル費用は俺が全額持つから、この結婚は、なかったことにしてくれ」
一方的に言われて、私はカフェに置いてけぼりにされた。
何が、悪かったんだろう。
蓮がうんざりするほどのことを、私はしてしまったのだろうか。
そんな、一方的に婚約破棄されるほどのことを、私はしてしまったの?
考えても答えは出なくて、代わりに涙があふれ出した。
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