1 突然の別れ

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「大島さん?大丈夫?」 気がつくと、向かいの席に同僚の水野さんが座っていた。 慌てて涙を拭うと、水野さんは優しくその手を止めた。 「たまたま近くの席に座ってたから、話はだいたい聞こえちゃったんだけど」 恥ずかしい。 泣き顔を見られたことだけでも恥ずかしいのに、その理由まで知られてるなんて。 私と蓮は勤務先が違う。 だから、婚約破棄になってもそこまで噂にはならないだろう。 でも、明日にでも会社の上長に報告はしなければいけない。 寿退社の予定はなかったけど、私が長年付き合ってた彼と結婚することは、うちの部署の人間ならみんな知っていることだ。 彼らに、なんて言えばいいんだろう。 急に婚約破棄されました? 理由が全くわからないけど、それしか言いようがない。 「化粧落ちちゃうかもしれないけど」 水野さんが店員さんから温かいおしぼりをもらってくれて、それを目に当てる。 「私、何がいけなかったんでしょうか」 明確な答えを求めてたわけじゃない。 ただ、男性目線からの意見が欲しかっただけだ。 「大島さんは何も悪くないと思うよ。 こんなこと言うのもどうかと思って黙ってたけど、俺、大島さんの彼が他の女の子と仲良さそうに歩いてるとこ、見ちゃったんだよね」 返ってきた答えは、ショッキング過ぎる内容で。 蓮が、浮気していた? 「そんなはず、ない。蓮は……」 「でも、普通の関係には見えなかったよ」 水野さんが追い打ちをかけるように言う。 蓮には姉妹はいないし、きっと、本当に女の子と仲良く歩いてたんだろう。 私の知らない間に、私の知らない人と。 また溢れだす涙を、お絞りを押し当ててこぼれないようにする。 「大島さん。俺は、大島さんのこと、好きだよ。彼みたいに浮気もしない。 だから、このまま俺と結婚しようよ。 ドレス、もう選んでるんでしょ?俺、大島さんのドレス姿見たい」 驚きのあまり、涙が引っ込んだ。
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