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そんなある日。
蓮から珍しくメールが来ていて、綾が、蓮の退職を知ってLINEを送ってきたことを知った。
ちゃんと捕まえておいてくださいよ、と。
綾は、心の中ではまだ蓮への未練を断ち切れていないんじゃないか。
そう思ったら不安でいてもたってもいられなくなって、俺は仕事帰りに役所に行って、婚姻届をもらってきた。
蓮に未練はないか、何度も確認しないと安心できなくて、結果的には綾の方から婚姻届にサインをしてくれた。
その日のうちに役所に提出して、戸籍上夫婦になってようやく安心できた。
新居も急いで契約して、一緒に暮らすようになった。
名実ともに夫婦になれて、俺は浮かれていた。
その一方で、蓮の体調はどんどん悪くなっていた。
俺が見舞いに行って綾のことを話すときだけ、笑顔になった。
結婚式の綾のドレス姿の写真をあげると、綾の子供のエコー写真と一緒に大切そうに手帳に挟んでいた。
新婚旅行の土産に、願いが叶うという鈴を送ったときも、綾とお揃いだというと、誰が見てもわかるくらい喜んでいた。
大事そうに、ベッドの頭の部分にくくりつけていた。
「いい音ですね」
「一番いい音がするのを選んだからな」
「ありがとうございます」
その頃にはもう、蓮は昔の面影がなくなるほどに痩せていた。
それでも、綾の話を聞くと少し元気が出るように見えて、俺は一生懸命綾の話をしていた。
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