side 武士

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綾のお腹の子がすくすくと育つのに反比例して、蓮の体調は悪くなっていった。 もう、自力では食事もできなくて、点滴で栄養摂取していた。 その日、俺が見舞いに行くと、珍しく蓮は寝ていた。 お母さんが目を真っ赤にして、俺を廊下に呼び出した。 「もう、点滴だけじゃ痛みに効かなくなって、今日からモルヒネを始めたんです。これからは、意識が朦朧としていることのほうが多くなるだろうって、先生が」 「もうそんなに、悪いんですか?」 「これでも頑張った方なんです。最初は、余命半年って言われてましたから。それでも、あなたが毎日綾ちゃんの幸せそうな話をしてくれるから、あの子はここまで頑張ってこられたんです。 自分の選択に間違いはなかったって、いつも言ってました」 俺は病室に戻って眠っている蓮の手を取ると、綾のお腹の子は順調に育っていて、綾も幸せそうに過ごしている、と告げた。ほんの少し、蓮の手に力が入った気がした。 帰り道、俺は考えていた。 きっともう、蓮の命は今にも尽きようとしている。 本当に、綾に何も知らせずにいていいのだろうか。 最後にひと目、会わせてあげたほうが蓮も喜ぶんじゃないだろうか。 そんな事を考えながら家に帰ると、綾が言った。 「武士さんが毎日お見舞いに行ってるのって、蓮、だよね?」 思わずバッと綾を見た。 なんで、そのことを知ってる? 俺の無言の問に答えるように綾が言った。 「今日、蓮のお母さんが面会に行くところを見たの。 教えて。蓮はどこが悪いの? なんで、武士さんは蓮のお見舞いに通ってるの?」 もうごまかせないと思った。 元々、もう本当のことを話した方がいいんじゃないかと思っていたところだ。 俺は、綾に真実を告げた。 もしかしたらこれで、綾は俺に怒るかもしれない。 騙されたと、俺のもとを去っていくかもしれない。 それでも、綾には本当のことを知る権利があるし、俺が短い期間でも幸せでいられたのは、間違いなく蓮のおかげだから、最後くらい、蓮に返そうと思った。
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