5 別れの時

3/4
前へ
/81ページ
次へ
お腹の子は問題なく順調に育ち、やがて産み月を迎えた。 「子供の名前なんだけど」 お腹の子が男の子だというのは、もう分かっている。 武士さんにも教えた。 武士さんと二人、名付けの本を何冊も買って、画数やゴロなど考慮に入れながら、いくつもの名前を候補にあげた。 もういつ生まれてもおかしくない時期に、武士さんが切り出した。 「蓮にしたい。調べたら、画数も問題ないみたいだし、キラキラネームでもないし」 子供の名前を「蓮」にすることは、私も考えたことだった。 でも、さすがに元カレの名前をつけるのは武士さんも複雑だろうと、候補からあえて外していた。 「蓮みたいに、優しいいい子に育ってほしいし、蓮を、いつでも感じることができるだろ?」 「いいの?」 「むしろ、俺がそうしたい。蓮は俺の恩人だから」 蓮がいなければ、きっと私と結婚できなかった。 蓮じゃなければ、托してもらえなかった。 武士さんはいつもそう言って、蓮に感謝している。 そうやって考えることのできる武士さんが、私はとても好きだ。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

675人が本棚に入れています
本棚に追加