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目を覚ますと、窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
ベッドライトを点けて時計を一瞥すると、もう夕食の時間の十分前だった。
白夜とお姉さまはもう街へ向かったのだろうかと、どこかすっきりした頭で考えながら、私は身体を起こした。
今夜お父様は出張でいらっしゃらない。ならば今宵の夕食は一人なのかと息を吐いた。
そして、身繕いもままならないまま部屋の扉を開ける。すると間髪入れず「香」と私を呼ぶ声が聞こえ、私は驚きのあまり飛び上がりかけた。
「……白夜?」
予想だにしない不意打ちに、数瞬の間思考が混濁する。
振り向くと、ドアの隣の壁に寄り掛かるようにしてその人が立っていた。
何で彼が此処に居るのかとか、何をしているのかとか色々な疑問が浮かんだが、そう言えば「今晩は忙しい」ようなことを綾お姉さまが言っていたな、っていうところにどうにかこうにか行き着いた。それとも、未だ彼女を待っている途中なのか。
そう考えてしまうと、急速に、私の中の温度が引いて行った。
「夕飯のお迎えならありがとう。…でも、ちゃんと間に合うから心配無用よ」
いつも通りにそっけなく言うが、彼からの言葉は無い。
一体どうしたというのだろう。
何だかむず痒い気分になって、私は先ほど立ち聞きした話について水を向けてみた。
「…いいの?こんなところにいて。今日はお姉さまとデートだって聞いたけど」
すると、案の定驚いたような反応が返ってきた。
「誰がそんなこと、」
「壁に耳あり、よ。お気をつけあそばせ」
元より伯爵家の令嬢とその使用人とのロマンスなんて、公に祝福されるものではない。
狼狽した白夜の態度で私はもう満足し――我ながら嫌な性格だと思う――ちょっとだけ疼いた胸に気付かないふりをして、彼の前を通り抜けた。
しかし、今日の彼は何故か私をすぐに解放してはくれなかった。
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