ナイトと契約

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 私はとっさに白夜に掴まれた片腕をまじまじと見詰め、次に流れるように彼自身を観察した。 「…なに?」 「……」 「白夜?」 「…何があった」 「え?」  一体何の話?と二、三度目を瞬かせる。  白夜は一瞬口ごもったが、何か考え込んだ後に私を覗き込んだ。 「さっき…悪いとは思ったが、お前が寝ている間に部屋に入ったんだ」 「な――!」  浮かび上がった疑問も、その一言で氷解する。  理解してしまうと同時に私の中の何かが沸騰し、ぱちんと音を立ててはじけた。  「女の子の部屋に無断で踏み入るなんて、最っ低!」  無神経にもほどがある。しかも、よりによってあんな間抜け面を見られるなんて。  伯爵家の令嬢なんて御大層な肩書はどこへやら、幾つも年上の男性に平手や拳等の力業で抗議をする。  無論、相手が相手だからそれはダメージなんてものにすらならなかったが、それでも「ノックしても返事が無かったから」「鍵がかかって無かったから」なんて言い訳を聞かされると増々ヒートアップしていった。  白夜は慣れたように私の攻撃の数々をかわすなり防ぐなりしていたが、このままでは埒が明かないと判断したのか私の両手首を掴み、多少強引に私を宥めて視線を合わせた。 「何故、泣いていた」  あんまり真剣に訊いてくるから、私はまた泣きそうになってしまった。  瞳を反らし、「白夜には言いたくない」と悪態をつく。  実際、言えない理由だし、言ってはならない理由だった。  けれど白夜は何か別の意味合いに取ったらしく、眉間を皺立てた。 「…俺では解決出来ないってことか?」 「……」  違うよ白夜。それは違う。  これは多分、貴方じゃなきゃ解決できない問題。でもきっと、叶うことの無い思い。  私がそれを口にすれば、きっと皆が傷つくことになる。  だから。 「ありがとう、白夜。…でも、大丈夫だから」  白夜は人が良いから、心配してずっと待っていてくれたんだね。  彼が私の部屋に来た理由は、今日の夜家を空けることを伝えに来たのか、それともお土産は何がいいか聞きに来たのか。…でも、もういいいよ。お姉さまの所に戻って、いいよ。   
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