24人が本棚に入れています
本棚に追加
「雨にならないかな…」
昨今の天気予報というものは、八割がた外れない。ああ、雲ひとつない青空。今日もいい天気だな。
燦々と照り輝くお天道様を恨めしく眺めつつ、私はほうと深いため息を吐いた。
「それ、今日何度目の台詞?」
そう苦笑しながら答えた綾お姉さまは、困ったように私のことを見ている。
相変わらず、緩く波打った長い黒髪が艶々と美しい。
ついでに、そのおかんばせも、お声も、何もかもが可憐だ。
どこを取っても「非の打ちどころのない」女性である彼女は、何を隠そうこの斑鳩伯爵家の二の姫であり、この私、斑鳩香の四つ上の姉上様である。
黒目がちな瞳、ふくよかな唇、きめの細やかな白い肌。
そんな息を呑むほどの美女の微笑は、さながら芸術品だ。
「香は本当に乗馬のお稽古が嫌なのね」
お姉さまに半分咎めるように、もう半分は面白がるように投げかけられた台詞に、私は軽く眉尻を下げた。
「別にお馬に乗るのが嫌なんじゃないわ。ただ…」
「ただ?」
「…お稽古があったら、馬術場に行くまでの道のりを、あの人と一緒の車に乗らなきゃいけないじゃない」
あの人、という三人称にお姉さまは一呼吸分考え込んだが、すぐその人物に思い至ったのか「まあ」と口元に手をやった。
「それは、どうして?」
「だって、気まずいんだもの」
「あらあら。昔はあんなに白夜、白夜ってくっついていたのに」
「……」
白夜。
その名前をお姉さまの口から聞き、私は少しの間黙り込んだ。
「…私が何を話しても無視するか『そうか』としか言わないから、つまらないのよ」
つまらない。そう、つまらないのだ。
否。
本当は、そんなことが理由じゃないのだけれども―――
最初のコメントを投稿しよう!