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1. 四つ葉のクローバー
二十七歳の誕生日は、メールやSNSの掲示板に友人から『おめでとう』というメッセージが書き込まれ、そして大抵、一緒に『結婚おめでとう』と付け加えられていた。
私はそれらのコメントに『ありがとう』と返事を打ち、ディスプレイの時計を見た。二十三時を少し過ぎたところだった。
ラップトップを閉じ、広めのダイニングを見渡す。
披露宴は三週間後。
新しい家具が収まったマンションの一室は、他人の家のようだ。
まだ自分の匂いすら落ち着いていない部屋だから、余計に心細い。
岩崎比和子が、水沢比和子になる。何度も考えたことだけど、やっぱりピンと来ない。
突然、ローテーブル上のケータイが彼専用の呼び出し音を奏でた。
「比和子? 俺だけど。もう寝るところだった?」
柔らかな声。
今は遠いところにいるけれど、もうすぐ一番近い存在になる人。新しい家族になる人。
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