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「……風見先生の親友と、俺の友達が、同じ人じゃないかって……」
どう説明したら良いのか、迷いながらさつきは口を開いた。
「共通の友達がいたってことですか? でも、少しだけ聞こえちゃったんですけど、風見先生って、先輩のこと女の子だと思ってたみたいですね」
「あ……、うん、そうみたい……。声で、違うってわかったんだと思う」
「先輩、可愛いから……」
コーヒーを啜って、成井田は自然にそう言った。
「可愛くなんか、ないよ」
意識してはいけない、と思えば思うほど、さつきの顔は火照ってしまう。マグカップを握り締めながらそう呟くと、成井田はすみません、と焦った声を出して、ところで、と話題を変えた。
「風見先生と幸崎先輩の共通の友達って、建築関係の人ですか?」
「うん。建築士で……」
「結構年上の人ですか?」
「三十歳位って、言ってたかな。ネットの、コミュニティで知り合って……ユタさん、ていうんだけど、風見先生と同じ、川喜田賢三の事務所で設計してるんだって」
「えっ、すごいですね」
川喜田賢三は建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を授賞している有名建築家だ。海外でも多数の高層ビルや博物館などのデザインを手掛けている。成井田はその名前を聞いて、目を輝かせた。
「うん。すごいよね。京都の新美術館とかの設計チームに入ってたんだって」
「あ、それ今月のカーサに載ってました」
そう言うと成井田はローテーブルの下の薄い引き出しから建築雑誌を開いて見せた。見開きの写真は美術館のエントランスが大胆な構図で切り取られていた。
「そうなんだ。成井田は毎号チェックしてるの?」
「買うのは、気に入った記事がある時だけですけど。俺、川喜田賢三の住宅が好きで」
「“砂海の家”とか?」
渡された雑誌をパラパラめくりながら、さつきが目線を上げて成井田に聞く。それを聞いた成井田は嬉しそうに声を弾ませた。
「はい! ただのプレーリースタイルじゃなくて、中庭と個室の配置とか内部と外部の連続性をすごく計算されてて……」
“砂海の家”は川喜田賢三の代表作の一つだ。ドバイの砂漠地帯にぽつんと建設された富豪の邸宅で、地面からなだらかに盛り上がって形成される屋根には砂漠でも育つ強靭な多年草が植えられ、まるでそこから湧く泉のように配置されたプールもあり、遠景の写真を見るとそこだけ青々としていて砂漠の中のオアシスのように見える。
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