きみを見つけた

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「だから先輩が呼ばれる時、ちょっとドキっとします」  さつきは口の中のものを一気に流し込むと、ゴホゴホとむせた。  成井田は焦って、急に話しかけてすみません、と言いながらさつきの背中をさする。  ごめん、とさつきも成井田に気を使わせたことを詫びて、さらに呼び名についての成井田の言及に身を縮こまらせた。 「ごめん、成井田のあだ名を取っちゃって……。でも、俺のことそう呼んでくれるのはユキちゃん……中之島先輩と片平先輩くらいだから、もし嫌だったら呼び方変えてもらうよ」  さつきがいとも簡単に提案したので、成井田は目を見開いた。 「先輩が変える必要なんて、ないですよ!」 「えっ? でも、成井田もコウちゃんって呼ばれてたんだよね? 俺も呼ばれてたら、紛らわしくて嫌じゃないかな?」 「大丈夫ですよ。大学入ってからは、名字の、成井田のナルって呼ばれる方が多くなりました。先輩にも、そう呼んで欲しいです」 「そっか。……成井田のナル、くん」  緊張気味に恐る恐る名前を呼ぶさつきに、成井田は小さく噴き出した。 「いや、成井田から取って、ナルって呼ばれてるんです。成井田のナルとは呼ばれてないです」 「あっ、ご、ごめん。ナル、くん?」 「くんを付けられたの初めてですね。あ、女の子にはあるかも。先輩も、ナルでいいですよ」 「うん。な……ナル……」  友達をあだ名で呼ぶ、という経験がほぼ無いさつきは、なんとなく首の辺りがくすぐったいように感じて、赤面したまま俯いた。 「……」 「……?」  成井田が黙ってしまったので、呼び方がまずかったのかと、不安げにさつきは顔色を伺った。すると、さつきをじっと見つめていた成井田と目が合う。さつきはこの時初めて、成井田の顔をよく見ることが出来た。形の良い鼻梁、濃い眉の下にスッと一筆で描かれた様な、くっきりとした二重目蓋、薄めの唇。精悍な顔つきは、とても綺麗だ、と思った。男に綺麗という形容を抱くのは、自分の性質のせいかと後ろめたくも思ったが、成井田の男らしい顔はドキリとするほど整っていた。 「成井田……あ、違った、ナ、ナル……?」  さつきの声に我に返った成井田は、すみません、と小さく呟いてすぐにいつも通りの調子に戻った。 「中之島先輩と幸崎先輩って、幼馴染みなんですよね? 幸崎先輩のこと、昔からコウちゃんて呼んでたんですか? 下の名前で呼ばないのかなって」  成井田が元に戻ったのに安心して、さつきはほっと胸を撫で下ろす。 「うん。中之島先輩は、家が近くてずっと仲良くしてもらってたんだ。最初はさっちゃんって呼んでくれてたんだけど……。俺が下の名前でからかわれてから、呼ばれるの苦手になっちゃって、名字呼びに変えてくれたんだ」  さつきは、そう口走ってからしまった、と青くなった。自分のことをベラベラと、こんな暗いつまらない話をしたら、幻滅されてしまう。胸をざわつかせながら、そっと、成井田の口元を確認する。 「そうだったんですね。中之島先輩ってめちゃくちゃ面倒見のいいお兄ちゃんって感じ、しますもんね」  しかし、成井田の唇は笑みの形のまま、口調も優しかった。 「うん。俺、ほんとに空気をよむとか出来なくて、友達も作れたことないけど、ユキちゃ……中之島先輩のおかげでサークルにも入れてもらえてて……。恩人なんだ」  成井田が嫌な顔ひとつせずに話を聞いてくれるので、さつきはほっとした。加えて中之島のことを良く言われて、嬉しさで高揚する。自分でも驚くほど、正直な気持ちを言うことができて、不思議に思いながら成井田を見た。 「俺はそういう幼馴染みっていないので、羨ましいです」  自然に接してくれる成井田に、さつきは笑みをこぼして答えた。  このまま、成井田と良い友達になれるかもしれない。さつきは期待で胸を膨らませていた。
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