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「それでさ……」
「んー」
数日後、友人に話しかけられても、成井田は気もそぞろでさつきの姿を目で追っていた。
なぜこんなに気になってしまうのだろうと、自問しても答えは出ず、でもこれだけは言えた。さつきと、友人になりたい。友人になって、あの、いつも俯きがちで寂しそうな表情が変わるところを見たい。そして、これは単純な興味だったが、参考作品の独創性が、どこから生まれてくるのか、物事の捉え方や思考がどうなっているのか、魅力ある作品を生み出せる人物性を、知りたいと思った。
受講者が多いのでさつきは気付いてないだろうが、水曜二限の教養課目だけ実は一緒に受けていた。さつきはいつも空いている前の方の端の席に一人で座り、授業が終わると誰とも雑談せずに退出する。飾り気のないTシャツとパーカーに、黒いスキニージーンズ。スニーカーソックスを履いているため、細く締まった素肌の足首が見える。
明るめの髪色と、やはり柔らかい印象の顔立ちだろうか。こうして観察していると、女子にしか見えないように思えてくる。
「ナルさあ、恋してる?」
「は?」
話し掛けても上の空の成井田に、業を煮やした友人はからかい半分で聞いた。
……恋?
あまりに突拍子もない言葉に、成井田は面食らった。
「なんか、ぼーっとしちゃってるからさ。この講義に好きな女の子でもいたりする?」
「え……?」
成井田の反応に、友人はにやりと笑った。
「やっぱなー。誰だよ、同学年で附属出身なら結構知ってるから紹介できるかもよ? まー、ナルなら紹介するまでもなく声掛けたら付いてくる女の子多いだろうけど」
「そんなんじゃ無いよ」
「じゃあ何だよ」
にやにやしたままの友人は、正直に言うまで引かないつもりらしい。仕方無く、成井田は溜め息を吐いて白状した。
「期待に添えず悪いけど、そういうのじゃないよ。二年の幸崎先輩が、どんな人なのかなって思ってただけ」
友人は成井田の視線の先を追って、あー。と肩を落とした。
「真面目だなー。幸崎先輩の作風パクって成績上げるんか」
都合良く解釈してくれた友人に、成井田は安堵した。“恋”と言われて、最初は突拍子も無いと思った。しかし、ただの先輩……しかも一方的に知っているだけの相手をこんなに気にする感情は何だろう、と成井田の心の中でも疑問が広がっていた。もしもここで、友人に幸崎先輩への興味の正体を追求されたら、どう答えていいのか解らなかっただろう。まだ成井田自身、この感情が本当に友情に繋がるものなのか、どう処理していいものか見当もつかなかった。
「幸崎先輩って、設計とか造形の成績すごくいいみたいだし、芸術家肌の人なのかな。ちょっとミステリアスだな、と思ってさ」
「ミステリアスねー。そうだね。なんか、かわいいしね。確か、四年の教育学部の先輩と幼馴染みで、その人主催のサークルに入ってるらしいよ」
まさかそんな情報が友人の口から出るとは思わず、成井田は身を乗り出した。
「どんなサークル?」
成井田は、友人から詳細を聞いたその日に、入部を決めていた。
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