きみを見つけた

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✳︎  秋から冬にかけての中間期は、紅葉もあり、散歩サークルにとっては活動最盛期だった。軽い登山レベルのハイキングから、買い食いしながらの街歩きまで、さつきは休むことなく毎回出席し、成井田は二回に一回のペースで参加した。後期には、夏休み前のように、全員が集合する前に教室で二人きりで会うことは無くなり、顔を合わせても挨拶以上の会話は無くなった。それは成井田が意図的にさつきを避けているからに他ならなかったが、対人スキルの低いさつきは寂しく思いつつも、成井田に避けられていることに気付けていなかった。  年末になり、年内最後のサークル活動が、忘年会を兼ねてクリスマスイヴに開かれることになった。散歩サークルらしく大学から居酒屋まで、約五キロの散歩コースを歩く。  毎年、宴会部長である片平の「彼女居る奴への当てつけ」という提言により、クリスマスイヴの日に設定されていたが、彼女の居るメンバーも特に誰も反対しないため、今年もその日に忘年会が開催されることとなった。  川沿いの整備された土手を、メンバーは雑談しながらゆったりと歩く。開けた遊歩道は見晴らしが良く、時々寒風が吹き、皮膚が凍てつきそうな程だったが、他にも散歩をする人の姿はそこそこ見られた。川辺は先の台風で崩れた護岸工事が行われていて、土木専攻の片平が「この工事は特殊防護対策工で」と生駒にうんちくを聞かせ、中之島と川瀬にほどほどに、と嗜められていた。 「ナル……成井田」  夕日を見ながら歩いていた成井田は、密やかな声でさつきに声を掛けられた。最近は物言いたげな視線から逃げるように避けていたので、さつきと話すのは久しぶりだった。  成井田はサークルで集まる教室に、早めに行くのをやめていた。さつきへの欲望を自覚してから、二人きりになるのを徹底して避けていた。以前は講義が終わるとすぐに集合場所に移動したが、今はサークルメンバーが揃うのを見計らって時間調整をしてから向かう。今回の忘年会も、欠席することを考えていたが、さつきから出欠確認の連絡が入り『久しぶりに話せるのを、楽しみにしている』とのメッセージもあったことから、さつきの淋しそうな顔が浮かび、断れきれずに出席を決めていた。 「久しぶりだね、話すの」  成井田が気まずく感じながらも、さつきの方を向くと、さつきは変わらず恥ずかしそうに目を逸らせた。 「最近、忙しい?」 「いえ、そうでもないですよ」 「そっか。サークルの集合場所に集まるの遅くなったから、忙しいのかと思った」 「バンドの集まりも、あったりしたので」  咄嗟に吐いた成井田の嘘に、さつきは、そっか。そうだよね。と頷く。そして、成井田が黙ると会話は終わってしまった。  成井田は、一時親しくしていた時に解けたと思った、さつきの周りの防御壁のような薄い膜が、再び自分に対して張られているように感じた。それは、“ナル”から“成井田”に戻された呼び名にも、こうして横を歩いているのに離れている距離感にも現れていた。  でも、これが正しい姿なはずだと思った。いくら可愛いと思っても、男相手に変な気を起こしかけた自分を知ったら、誰だって気味悪がるだろう。この距離感が、このぎこちないただの先輩と後輩の関係が、普通で、正常な状態のはずだった。  成井田は、さつきの青白い頬を見る。あの教室で触れられた、彼の柔らかく滑らかな素肌の感触が、今は遠い。成井田の胸がズキリと痛む。でも、だめだ。  このままさつきに近付けば、とんでもない間違いを犯すかもしれなかった。だから離れるのが、正解だ。  成井田は、繰り返し自分に言い聞かせる。  淋しそうに俯いて歩くさつきの横顔を盗み見て、成井田は茫とした霧を晴らすように、頭を振った。
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